文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA

毎日のささやかな楽しみ

スマートフォン内の写真ファイルというのは、あっという間に増えてしまうものだ。筆者の場合、気がつけば、すぐに700枚近く溜まってしまう。女房に常々指導されるように、撮影当日ダウンロードして分類すれば良いのだが、それがなかなかできない。だから撮影月を見ると、1年以上前の写真が平気で常駐していたりする。かつて、イタリア人の知人が年末にクリスマスパーティーのフィルムを現像したら去年のクリスマス写真まで入っていて筆者は大笑いしたものだが、今や彼を馬鹿にできない。

前置きが長くなかったが、先日スマートフォンの中にたまっていた膨大な写真を整理した。そのなかに、筆者が発見するたび面白がって収めていた風景があるのに気づいた。「クルマのゾロ目」だ。要は同じ種類のモデルが並んで駐停車している風景である。
ただし、筆者は自身であるルールを決めて、以下は“反則”として撮影しなかった。
・販売店の敷地内、もしくは周辺
・営業車。たとえば郵便局の配達車や電話工事のクルマなど
・販売した店が同じクルマ。イタリアの場合、ナンバーフレームの周囲にディーラー名が記されているので即座に判別できる。すなわち自動車関係者による出張の可能性が高い

さっそく実際にご覧いただきながら、組み合わせが起こりうる頻度の少なさや、意味合いの深さを基準に、100点満点で採点してゆきたいと思う。

1 【フィアット500】
白のトーンが違う現行モデル初期型2台である。ただし、500は2021年のイタリア国内新車登録台数で、デビュー14年後にもかかわらず依然2位に君臨している。そうしたこともあり同様のシチュエーションは比較的発見しやすいため、せいぜい30点といったところである。

画像: フィアット500×2台。

フィアット500×2台。

2 【ランチア・イプシロン】
フィアット500の姉妹車である。こちらも2021年登録台数で3位にあるため、イタリアではけっして珍しいゾロ目ではない。したがって同じく30点。

画像: ランチア・イプシロン×2台。

ランチア・イプシロン×2台。

3 【ランチア・ムーザ】
2021年9月にスーパー駐車場で撮影。ムーザは、まだイプシロンが3ドアのみだった時代、ミニMPVブームに乗って一定の顧客を獲得したが、同じ市場で健闘したメルセデス・ベンツAクラスの人気には及ばなかった。そのため早くも見かける頻度が減った存在である。さらに生産終了の2012年から早10年である。そうした背景を考えれば、2台揃う風景はそれなりに珍しいので65点といったところか。ちなみに、右側のクルマは砂埃で真っ白だが、逆にオーナーは門扉から未舗装路をえんえんと走ってゆく郊外の大邸宅在住、ということもありうる。

画像: イタリア版ミニMPVとして存在したランチア・ムーザ。

イタリア版ミニMPVとして存在したランチア・ムーザ。

4 【MINI】
まったく同色、それも2台ともディーゼル仕様のONE Dである。にもかかわらず、よく見ると5ドアと3ドアだ。念のため例のナンバーフレームを確認したが、手前は地元ディーラー、もういっぽうはまったく異なる地方の販売店であったので、偶然の可能性が極めて高い。さらにMINIはイタリアで登録台数トップテンに入っていないので、ゾロ目希少性はさらに高くなる。そこで同じく65点としよう。

画像: 2台のMINIは、よく見ると3ドアと5ドアだが、各オーナーは、隣のクルマを発見したとき、それなりに驚いただろう。

2台のMINIは、よく見ると3ドアと5ドアだが、各オーナーは、隣のクルマを発見したとき、それなりに驚いただろう。

5 【初代メルセデス・ベンツAクラス】
イタリアでも大きな成功を収めた初代Aクラスだが、近年はさすがに目撃する機会が減ってきた。そうしたなかスーパーの駐車場で発見した風景である。さらによく見ると、右がノーマル仕様なのに対して、左は後から追加されたロング・ホイールベース版「L」だ。ということで75点。

画像: 初代メルセデスAクラスのストレッチ版(左)とノーマル版。

初代メルセデスAクラスのストレッチ版(左)とノーマル版。

2台から見えてみるもの

さらに「うんちく」を傾けさせていただこう。

6〜9 【二世代ご対面】
同名モデルで違う世代が並んだ場面である。写真6は2代目および現行フィアット・パンダの2台並びだが、ベストセラー車種で、それもこの国の人々が好むシルバーゆえ、せいぜい30点だ。
いっぼう、写真7はフィアット・プントによる2代目&3代目(グランデプント)の豪華3台揃いである。ただし、2代目は12年、3代目も13年にわたってカタログに載り続けたから、現存している頻度としては高い。さらに「ここまで来れば初代もいてほしかった」という欲も出るので60点としよう。
写真8は現行フィアット500と、いわゆるヌオーヴァ500という微笑ましい光景だ。だが後者が今もお年寄りの足として元気に走り回っているため、ときおり起こりうる取り合わせである。したがって70点。
いっぽう写真9は、直系ではないが、デビューを1955年に遡るフィアット600L(右)と、2012年に登場し今日もカタログに載る同500L(左)である。フロントグリルのモール、ヘッドライト&ポジショニング・ランプの配置など、アイデンティティが継承されていることがわかるショットだ。それにしても今日のクルマの大きいことよ。600Lはヌオーヴァ500よりも見かける頻度が格段に少ないから、85点に値する。

画像: パンダ2世代。左の2代目のリアワイパー・アームには、イタリアで結婚式参加者が付ける白いリボンが。

パンダ2世代。左の2代目のリアワイパー・アームには、イタリアで結婚式参加者が付ける白いリボンが。

画像: 2代目プントと、2台の「グランデプント」。

2代目プントと、2台の「グランデプント」。

画像: 一瞬のショットゆえ画質はお許しを。フィアット500親子。

一瞬のショットゆえ画質はお許しを。フィアット500親子。

画像: デビュー年に半世紀以上の開きがあるフィアット500Lと同600L。

デビュー年に半世紀以上の開きがあるフィアット500Lと同600L。

10〜13 【いろいろ考えさせられてしまうペア】
写真10はDS3(左)と現行シトロエンC3(右) が偶然並んでいたところである。DS3は遠く2009年の発表で、すでに生産完了している。また近年DSオートモビルズは、シトロエンとより異なるデザインを与えて差別化を図っている。だが、同じ血筋−−実際、DS3は2代目シトロエンC3のプラットフォームを使用していた−−であることをいやがうえにも感じさせるショットということで50点。

続く写真11でフィアット500と並んでいるのは、2016年まで販売されていた2代目フォードKaだ。この2台は同一プラットフォームで、いずれもFCAのポーランドにあるティヒ工場製である。形状こそ異なるがテールランプやフロントフェンダーの位置、そして写真では見えないもののダッシュボードの各種操作類などは極めて似通っている。共通のワイヤーハーネスを使用していることを匂わせる。2台は「あら、久しぶりねえ」と会話を交わしているに違いない。フォードKaがイタリアで初代ほどヒットしなかったことから、この取り合わせは滅多に見かけないので85点である。

写真12は、あるスーパーマーケットの駐車場で2022年2月に撮影したひとこまである。(左から)フォルクスワーゲンのトゥーラン、先代ポロ、そしてゴルフⅦが揃った。車体色が同じなのは、この「ウラングレー」がイタリアにおいては追加料金なしでオーダーできる数少ない選択であることが影響している。ともあれ、あたかもラインナップ紹介広告のような光景なので70点。

写真13は2022年1月、生協の駐車場での光景だ。間隔こそ開いているがシルバーのプジョー206が2台並んでいる。生産終了から早10年でもユーザーが多いのは、その実用的なコンパクトさと、必要十分な機能によるものである。サードパーティー部品も豊富だ。ボディの肥大化、過剰な付加価値化そして高価格化が著しい近年の小型車に疑問を投げかける風景ということで90点を与えたい。

画像: DS3とシトロエンC3。最近でこそ先鋭化するDSのデザインだが、考えてみればシトロエンに限りなく近いところから始まった。

DS3とシトロエンC3。最近でこそ先鋭化するDSのデザインだが、考えてみればシトロエンに限りなく近いところから始まった。

画像: 同じプラットフォーム、同じ工場同士の2代目フォードKaとフィアット500。

同じプラットフォーム、同じ工場同士の2代目フォードKaとフィアット500。

画像: 近年のVWが偶然3台並んでしまった。

近年のVWが偶然3台並んでしまった。

画像: プジョー206の愛好者は、今も根強く存在する。

プジョー206の愛好者は、今も根強く存在する。

思わず泣けてきた光景

14 【スマート・フォーツー】
一見なにげない風景だが、これを見た途端、思わず泣けてきた。きっかけは、リアに付けられた「mhd」のバッジである。
2008年から約10年間、筆者はブランドのコミュニケーション誌に、ヨーロッパ各国のスマート・オーナーを訪問する記事を撮影・執筆していた。ただし、スマートの持ち主なら誰でも良いというわけではなかった。編集部のオーダーは、当時の現行モデルである2代目、それもアイドリング・ストップ機構が付いたmhd仕様のみOK、というものだった。
外からmhdを確認する手段は2つだった。前述のバッジか、センターコンソールにあるアイドリング・ストップ作動&解除用緑色ボタンである。そのため欧州各地の訪問地で、スマートの後ろ側にまわっては、mhdのバッジを確認した。そして車上荒らしと間違われないようにしながら、車内を覗き込んだ。
ところが実際探してみると、当時はまだ出始め、かつ同じスマートでもディーゼル仕様が脚光を浴びていた時代だった。想像していたほど簡単には見つからない。
mhd車を見つけたら、駐車中のワイパーに筆者の連絡先を記した紙を挟んだり、ときにはオーナーが戻ってくるまで待ち伏せまでしたことがあった。かばんの中には、自分が何者で、目的が何であるかを説明するための掲載誌をしのばせていたものだ。
誌面に“どんぴしゃ”のキャラクターを備えたスマート・オーナーなのにmhdでなかったり、そうかと思えばバッジの類が嫌いで、mhdをわざわざ剥がして乗っているオーナーもいた。
そのようなリサーチと取材を約10年にわたって続けた。だから、この写真の2台並びを発見したときは、「当時の苦労は何だったのか」という落胆と、「ああ、その後こんなに普及して良かった」という安堵が交錯したものだ。ということで筆者としては100点を与えたい。

過去2年間は、モーターショーをはじめとする各種イベントが中止や延期になったことから、出張の頻度が極端に減った。そのため今回の大半の写真は、筆者が住むシエナ市内で撮影したものである。それでも、身近なロケーションとシチュエーションで、こんなにも楽しめるとは。自動車好きは得である。

画像: スマート・フォーツー・カブリオとクローズドルーフのフォーツーだが、いずれもスタート&ストップを備えたmhd仕様。かつてひたすら捜索に苦労したモデルが2台並びとは。

スマート・フォーツー・カブリオとクローズドルーフのフォーツーだが、いずれもスタート&ストップを備えたmhd仕様。かつてひたすら捜索に苦労したモデルが2台並びとは。

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