いまや世界のクルマのベンチマークとされるVW(フォルクスワーゲン)・ゴルフ。初代は1974年に登場しました。でも、その前のVWは、現在のVWとはまったく印象が異なる世界だったのです。その世界とは、ほぼすべてのモデルが「ビートル(タイプ1)」をベースにしたRR車だったこと。
今日はRRからFFに大変換した頃のVWのお話をしたいと思います。
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そういえばゴルフの前のVWって、どんなだったんだろう

VWゴルフは2017年現在で8代目を数えます。初代はジウジアーロの効率よいパッケージと優れたデザインによってその後登場したクルマたちに大きな影響を与えた名車です。1.5ボックスというスタイルにリアハッチが開くという、今では当たり前のハッチバックという形態も、このゴルフがあってのことだと思います。駆動方式はエンジンを横置きに積んだFF(前輪駆動)で、当時はまだ小型車での採用例が少なく、日本でもスバル1000など一部が該当するだけでした。

画像: 【初代ゴルフ】 1974-1983 小型乗用車のスタンダードを築き上げた名車。 www.favcars.com

【初代ゴルフ】 1974-1983 小型乗用車のスタンダードを築き上げた名車。

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これ以降ゴルフはモデルチェンジを繰り返し、熟成していきました。どの世代も世界の自動車メーカーが目標とする「究極の実用車」でもあります。VWはゴルフに限らず初代ゴルフ以降のモデルをほぼFFベースで開発をするようになりました。現在ラインナップされているモデルもそうです。

ではゴルフの「前の時代はどんなだったの?」と聞かれたらどうでしょう。ビートルや「金太郎塗り」がかわいいいわゆるVWバス、「タイプ2(T2)」は思い浮かぶと思うのですが・・・。

かつてのVWは、全部リアエンジンだった

スバリ答えは、ほぼ【全車種がビートル(タイプ1)派生車種だった】です。
もちろん大型トラックなどは別ですが乗用、小型の商用モデルは、ビートルベース・・・すなわち空冷フラット4のリアエンジンモデル ”しか” なかったのです。驚きですよね。バンやトラック(タイプ2)もビートルベース、スポーティクーペ(カルマンギア)もビートルベース、セダン(タイプ3)もビートルベース。つまるところ、”全部空冷エンジンのRR”!

でも、ビートル由来のRRではもはや時代の変化に対応出来なかったVWは、1970年代の終わりまでに、FFへの大変換を終わらせています。いろいろなメーカーが通って来たFR(後輪駆動)からFFへの転換は、さほど大きな驚きではありません。

というのも、エンジンは基本的に水冷直列(もしくはV型)エンジンだっただからです。でもRRからFFにというだけでなくエンジンが空冷フラット4から水冷直列に全車種が変わるというのは、なんというドラスティックさ。なかなかにスゴいことなのではないかと思うのです。世界に名だたる大メーカーの中でここまで変換したのは類がないのでは・・・

大変換の過渡期にあった知られざるVWたち

画像: 【412】 1972-1974 1968年登場の411の改良版。ビートル以外の(ドイツ国内での)空冷乗用モデル最終形態。 www.favcars.com

【412】 1972-1974 1968年登場の411の改良版。ビートル以外の(ドイツ国内での)空冷乗用モデル最終形態。

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RRの乗用車でVWといえばビートルを思い浮かべますが、いくら改良を重ねたとはいえ1946年に登場したビートルだけで会社の屋台骨を支えられるわけではなく、丸いボディを捨てて乗用車らしいスタイルを手に入れた「1500」(タイプ3)を1961年に追加したり、1968年により近代的なイメージとフルモノコックボディ、前輪ストラットサス、4ドアボディ(えっ、それまでVWには4ドアが無かったの!?)など数々の新機軸を盛り込んで登場した旗艦車種「411」、1972年にはその改良版「412」(こちらもタイプ4)など様々なモデルを登場させています。

タイプ4は全長4.5mにもなる大型サルーンで、おなじみ空冷フラット4エンジンも1.7ℓ、1.8ℓというビッグサイズでした。ライバルに合わせたハイパワー化は時代の要請だったため、1969年に燃料供給にタイプ3で既採用の電子制御インジェクションを装着して1.7ℓから80psを得た「412E」が、1973年には排気量を1.8ℓにアップし最高出力も85psに達した「412S」を追加しています(412Eの韻ジェクションはトラブルが多かったため、その代替モデル。そのためキャブレターに戻されていた)。タイプ1から始まったRRワーゲンの掉尾を飾るにふさわしい充実したモデルだったといえましょう。

でも結局最後まで残ったのはオリジナルのビートルだった、という話は、
・シトロエンでは「2CV」の発展改良版たる「アミ」
・ルノーでは「4(キャトル)」の上級版「6(シス)」
・BMC「ミニ」をアップデートした「クラブマン」
がいずれもオリジナルよりも先に消滅してしまったことと同じです。オリジナルは偉大なり。

画像: 【K70】1970〜1975 VW最初のFFはこのK70だった。まさしく知られざるVW。 www.favcars.com

【K70】1970〜1975 VW最初のFFはこのK70だった。まさしく知られざるVW。

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ですが新しい設計を盛り込んだタイプ4を持ってしても、ファミリーサルーン市場では苦戦を強いられました。彼の国では「RRのVWは当然」の時代だったのですが、ライバルのオペル・レコルト、ドイツフォードのタウヌスは基本設計も新しく見た目もフレッシュ、装備も豪華で、見るからに「新しいクルマ」としてドイツのユーザーに映ったのかもしれません。

VWはタイプ4の不振に頭を悩ませました。でもVWにはビートルの遺産である空冷フラット4のRRしかなかったのです。それはそれで極端な話ではありますね(涙)。
ところがそんな時、ロータリーエンジンを搭載したFFの先進サルーン「Ro80」を1967年に送り出していたNSU(エヌエスウー。アウディの前身)がVWの傘下に組み込まれました。1969年のことです。

NSUはRo80と一緒に、いわば保険のような存在としてだと思うのですが、通常の直4レシプロエンジンを積んだ普及モデルとして「K70」を開発していました。K70は1.6ℓの水冷直4エンジンを縦置きに搭載したFFサルーンでした。K70を手に入れたVWは、これをNSUブランドではなく、自社のトップに位置するクルマとして1970年に発売することにしました。
「全部ビートル」というVWのラインナップからVW自身が逃れるために。

矢継ぎ早にFFモデルを投入

そんなK70は、矩形のヘッドライトとピラーの細いクリーンなエクステリアを持つ「新時代VW到来」を告げる華々しいクルマでしたが、こちらも販売は苦戦して、なかなか「ビートル時代」から離れられない状態が続いていました。
そこでVWゴルフの登場・・・かと思いきや、実はゴルフはFFのVWでは第3弾になります。その前に、「パサート」、そして「シロッコ」が入るんですね。これまた意外です。そう、かつてのVWは意外なエピソードばかり!

初代パサートはK70が出た3年後、1973年にデビューしました。
基本コンポーネンツは同門アウディ80のそれを用い、ジウジアーロによる新時代を感じさせるボディを載せたファミリーサルーン。2ドア、4ドア、ハッチバック、バリアント(ワゴン)など多様なバリエーションを誇りました。エンジンはこちらもアウディ80でも用いられた1.3、1.5ℓの水冷直4でスタートしています。アウディとVWの各社がコンポーネンツを共用する時代は、すでにこの時から始まっていたのです。

VWは翌1974年、パーソナル感強い魅力的なクーペモデル「シロッコ」を追加しました。パサートはアウディ80をベースにしていたのに対してシロッコはVW自身が作り上げたモデルでもあります。ビートルのスペシャリティだったカルマンギアに相当する、いわば「ゴルフ・クーペ」として企画されました。
こうしてお膳立てが揃ったところで、いよいよ変換の本命、ゴルフが檜舞台に上がっていきました。

ゴルフと並んでVWを代表する小型車、「ポロ」も登場は早く、1975年には姿を現しています。そして1977年にポロのセダン「ダービィ」、1979年にはゴルフのセダン「ジェッタ」を発表してラインナップをさらに拡充しました。
このようにVWのFF大変換は、矢継ぎ早なモデル投入によって素早く行われました。
その裏でRRのVWはタイプ3が1973年、タイプ4は1974年には早々と生産を終え、1979年についにビートルがドイツ国内で生産終了したことで、ドイツのVWから新車で買える乗用RR車が消滅しました。それまで「全部RR」だった時代の長さを考えると、あまりにもあっけない転換でもありました。

画像: 【初代ポロ】1975〜1981 現在でもVWのベストセラーとなっているポロ。初代は1975年に登場。 www.favcars.com

【初代ポロ】1975〜1981 現在でもVWのベストセラーとなっているポロ。初代は1975年に登場。

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各メーカーに、歴史あり

【メーカーに歴史あり】第一回は、VWの歴史の中の大きなターニングポイントとなったRRからFFへの変換をお送りしました。いかがだったでしょうか。
それぞれのメーカー、そしてメーカーが今出しているモデルには、このように必ず「背景」「歴史」があります。その歴史を次回もまた紐解いてみようと思いますのでお楽しみに。

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